ジャブとは何か?
まずは、ジャブの定義について少し解説させていただきます。
ジャブというのは、「~をけん制する」とか「~を突く」などといった意味があります。
相手をけん制するためのパンチであれば、前手で打つパンチのみならず、後手で打つパンチでもジャブになり得るということになりそうです。
実際、オーソドックスの選手がサウスポーの選手を相手に闘うときには、後手である右手でジャブを打つことがよくあります。
しかし、突くようなパンチという意味も考慮するのであれば、前手で打つパンチが本来のジャブの形ということになりそうです。
また、一般的には、前手で打つパンチをジャブと呼ぶことが多いです。
そこで、この記事でも、前手で打つパンチのことをジャブと呼んでいきます。
ジャブを使いこなせるようになると⁉
では、ジャブを使いこなすことができるようになるとどのようなメリットがあるのでしょうか。
スタミナ切れしにくくなる
スタミナ切れしにくくなるのはなぜなのでしょうか。
それは、前手で打つジャブは、後手で打つストレートに比べ、小さなモーションで打つことができるためです。
後手で打つストレートは、後ろにある腕を前に回してパンチを打つことになります。
そのため、エネルギー消費が大きくなりがちです。
それに対し、前手で打つジャブは、極端にいえば、まっすぐ伸ばすだけのパンチであるため、エネルギー消費が少なくて済みます。
それにもかかわらず、多くの方は、利き手である(ことが多い)後手のパンチを好んで打つ傾向にあります。
もちろん、その方が力が入るからですね。
しかし、それが、実戦で疲れてしまう一因となってしまっていることが多いように思います。
加えて、ジャブでは強いパンチを打てないという認識もあるようです。
しかし、ジャブでも強いパンチを打つことは可能であるということを後に述べたいと思います。
試合の主導権を握ることができる
次に、ジャブのコントロールが上手な選手は試合運びも上手であることが多いです。
ジャブを適切に用いることができれば、相手の進路を上手にコントロールしたり、懐に入られるリスクを減らすことができるようになります。
また、その後のコンビネーションも当てやすくなります。
反対に、ジャブをおろそかにし、いきなり大きなパンチを打とうとすると、避けられたり、空振りとなり、無駄打ちが多くなってしまいます。
もちろん、これもスタミナを消費してしまう一因となります。
目隠しやフェイントとしての役割もある
ジャブで相手の視界を遮ることによって、他のパンチが当たる確率を上げることができます。
また、視界を遮られた状態で打たれたパンチは不意を突かれた形となるため、ダウンにつながりやすいです。
ダウンを奪うこともできる
先ほども述べた通り、多くの方は、利き手である(ことが多い)後手のパンチをよく打ちます。
そして、利き手ではない(ことが多い)前手のジャブでは強いパンチを打てないとの認識があるようです。
しかし、軽めのジャブにパワージャブというものを織り交ぜたり、スピードとタイミング次第で、十分相手にダメージを与えたり、ひいてはダウンを奪うことも可能となります。
ここで具体例を挙げておきましょう。
2024年に引退されましたが、浪花のプリンスこと石田匠選手は非常にジャブの上手な選手でした。
バンタム級チャンピオンの井上拓真選手から1R目にダウンを奪ったパンチもジャブでした。
ちなみに、この試合は井上と石田の試合であったことからNON STYLE対決と私は呼んでいます。(笑)
脱線いたしました…
また、テレンスクロフォード選手がエロールスペンスJr選手から2R目に奪ったダウンもやはりジャブでした。
大手プロジム出身の私の師匠もおっしゃっていましたが、昔はジャブのみのスパーリングをよく行っていたそうです。
そして、半年も経つと、物凄い音を立てて選手が倒れる様子が見られるようになったそうです。
つまり、洗練されたジャブの破壊力は抜群だということがよくわかります。
ジャブの打ち方
では、ジャブの大切さを認識していただいたところで、実際にどのようにすれば綺麗なジャブを打つことができるのかを解説していきたいと思います。
ここでは、すべてのジャブに共通するコツについて解説していきます。
脱力する
まず、どのパンチにも共通して言えることですが、脱力することが大切です。
しかし、頭では理解していても、実際に行動に移そうとすると、非常に難しいことがわかります。
では、どうすればいいのでしょうか?
一つの答えは、もはや拳を握らないことです。
なぜなら、人間というのは、拳を握ると、身体が緊張したり、無駄な力が入りやすくなってしまうためです。
「そんなことしたら、突き指してケガをするじゃないか!!」という声が聞こえてきそうです。
ですが、一度、騙されたと思って、拳を握らずに壁を手で軽く叩いてみてください。
どうでしょうか?
自然と拳を握ってしまったのではないでしょうか?
このタイミングこそが、拳を握る理想的なタイミングとなっています。
よく「パンチが当たる瞬間に拳を握れ」と言われることが多いですが、これを実践しようとすると、実際には当たる瞬間よりも早く握っていることが多いです。
これは私の私見ですが、おそらく、拳を守りたいという本能から無意識に握るタイミング早くなっているものと思われます。
肘を伸ばす
ジャブを打つときに大切となるのは、肘が曲がらないようにすることです。
ストレート系のパンチを打つ場合において、もっとも力が伝わりやすいのは、腕がまっすぐな状態、すなわち、肘が曲がっていない状態です。
なぜなら、肘が伸びていると、力が分散しにくいためです。
獲物を狩ろうとしている原始人の槍が折れていては獲物を捕らえることができないといったイメージです。
伸ばした腕が地面と平行になるように意識する
つぎに、強調しておきたいポイントは、伸ばした腕が地面と平行になるように気を付けるということです。
どういうことでしょうか?
伸ばした腕がしっかりと地面に対して平行になっていると、肩がアゴに近づくのを実感できると思います。
そして、この肩によって、相手のカウンターからアゴが守られるのです。
反対に、腕が下がっていると、フックやオーバーハンドを被せられるリスクあります。
また、腕が上がりすぎていると、アッパーを貰うなどのリスクがあります。
なお、このイラストでは、左アッパーにしましたが、元K-1王者の魔裟斗選手は、右アッパーを的確に当てていました。
では、パンチの高さを調整するにはどうすればよいのでしょうか?
その答えの一つは、膝の曲げ伸ばしで調整する、です。
こうすることによって、相手の顔やボディを安全に打ち分けることが可能となります。
ボクシングというのは、腕だけで闘う格闘技と思われがちですが、実は足の動きがとても重要なんですね。
肩を入れる
相手のガードが堅い場合、手打ちのジャブでは、相手の手に邪魔されてしまいます。
また、相手との距離が近い場合にも、腕が曲がった状態でパンチを打つことになるため、やはり相手の手に邪魔されてしまいます。
そこで、肩をグッと押し込むようにすることで、相手の手に邪魔されることなく、ジャブを打てるようになります。
剣道の突きのようなイメージです。
反対側の腕でブレーキをかける
どのパンチを打つときも、力を生み出すのは、背骨を中心軸とした回転運動です。
ジャブの場合も、この回転運動に合わせて、左腕を勢いよく投げ出すことによって打つこととなります。
ただし、ここで注意しなければならないことがあります。
それは、回転運動に引っ張られるようにして、右腕が身体から離れることのないように注意することです。
なぜなら、ジャブを打つ手と反対側の手が身体から離れてしまうと、力が分散してしまうためです。
引きを速くする
パンチの引きが遅いと、カウンターを貰うリスクが高くなります。
引きを速くするコツは、飛んでいる蝶々を素早く掴んで引き寄せるイメージでパンチを打つことです。
ただし、生捕りです。
握り潰してはいけませんよ。
解説しましょう。
まず、ハエではなく蝶々なのは、エレガントだからです。(笑)
虫嫌いの方にとっては、ハエも蝶々も同じかもしれませんね・・・
つぎに、生捕りといったのは、拳を強く握らないようにするためです。
なお、別の記事でも述べていますが、サンドバッグで練習するときは、サンドバッグをマンガ肉に見立てて中心の骨を素早く引き抜くイメージでジャブを打ってください。
先ほども述べた通り、人は自分で思っているよりも手前で拳を握っていることが多いです。
そのため、サンドバッグの中心を打つイメージを持つことで、実際にはサンドバッグに当たる瞬間に握ることができるようになります。
そして、中心の骨を引き抜くイメージを持つことで、引きを速くすることができるようになります。
ジャブのレパートリー
ここからは、様々な種類のジャブの打ち方を個別に解説していきます。
パワージャブ
パワージャブは、相手のガードの上から打っても、相手にダメージを与えることができる攻撃型のジャブです。
力=質量×加速度という式をご存知でしょうか。
加速度については、全身の筋肉量や引きの速さでコントールするしかありません。
しかし、質量については、階級制のスポーツでは、相手とほぼイコールなわけです。
なぜなら、体重がほぼ等しいからですね。
ということは、質量については、体重の使い方さえ知っていれば、努力することなく最大化させることができるのです。
これはありがたいですよね。
ですが、この体重を完全に利用できている方は非常に少ないのです。
おそらく、体重の50~60%しか利用できていない方がほとんどではないかと思います。
では、どうすればよいのでしょうか。
答えは、前足が着地するタイミングよりも、パンチの当たるタイミングを早くすればよいのです。
このようにすれば、パンチに体重を乗せることが可能となり、ひいては、力強いパンチが打てるようになるのです。
なお、通常のジャブについては、前足が着地するタイミング=パンチの当たるタイミングとするのが一般的です。
通常のジャブは、相手との距離を図るのが目的なので、スピード重視(連射重視)にするため、このような打ち方となります。
ボディジャブ
打ち方
ボディジャブの打ち方も、先ほど述べたジャブの打ち方と大きく異なるところはありません。
膝の曲げ伸ばしでパンチの高さを調節していきます。
ボディジャブを打つときは、しっかりと踏み込んで、バランスを崩さないように打つのがポイントとなります。
どちらかというと、以下に述べるマイナス要素(注意点)を減らしていくことの方が大切となります。
注意点
身体を前傾させない
ジャブの打ち方の箇所で、伸ばした腕が地面と平行になるように意識すると述べました。
ボディジャブを打つときも、このことをしっかりと意識すれば問題はありません。
しかし、相手のパンチを警戒しすぎたり、足が疲れてきたりすると、踏込みが浅くなってきます。
すると、腕だけでパンチの高さを調整するようになってしまいます。
その結果、腕が下がり、ひいては、頭の位置が低くなってしまいます。
そこに、カウンターを貰うと非常に危険です。
頭を膝より前に出さない
これは、身体を前傾させないことと関連するのですが、頭の位置は膝よりも手前(身体側)にあるのが理想です。
頭の位置が膝よりも前に出ると、カウンターを貰うリスクが高まります。
下の攻撃で終わらない
ボディジャブを打つときは、膝を深く沈める形となります。
膝を深く沈めると、基本姿勢の相手に比べ、移動速度が遅くなります。
また、ボディジャブを打っている方が上目遣いなのに対し、基本姿勢の相手は見下ろす形となっています。
つまり、相手の方が視野が広い状態にあります。
それゆえ、ボディジャブを打った後は、相手にカウンターを打たれやすい傾向にあります。
そこで、ボディジャブの後に、通常のジャブや右ストレートなどのパンチを打ち、相手の視界をふさぎながら基本姿勢に戻るようにします。
フリッカージャブ
フリッカージャブは、肘を肩ぐらいの高さに上げ、それを基点にして手を振り子のように振って打つジャブのことです。
通常のジャブとは異なり、下から飛んでくるようなパンチとなります。
そのため、通常のジャブがブロックされてしまうような場合、フリッカージャブで軌道を変えてあげることでパンチを当てやすくなります。
とくに、相手のガードが高いときなどには、フリッカージャブが良く当たります。
リーチの長い選手が好んで打つことが多い印象です。
下がりながら打つジャブ
インファイターで接近してくる相手に対しては、ダッキングやウィービングでかわしたり、フックを引っかけて相手のサイドに移動した上、コンビネーションを打つといった対処法があります。
さらに踏み込んで、下がりながらパンチを打てるようになると、相手の動きそのものを止めることができるようになります。
しかし、下がりながらパンチを打つというのは非常に難しいです。
例えば、通常のバックステップをしながら、パンチを打とうとすると、後向きの力と前向きの力が相殺され、前向きの力であるパンチの威力が減殺されてしまいます。
では、「バックステップをして、しっかりと着地をしてからパンチを打てばよいのでは?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、それでは時間がかかりすぎるのです。
スピードの速い選手が相手であれば、そのまま相手のペースに飲まれてしまうでしょう。
では、どうすればよいのでしょうか。
まず、①前足を後足に完全に引き付ける(=前足と後足を揃える)。
つぎに、②後足を後ろに引くのと同時にジャブを打つ。
ただし、すり足で。
です。
スムーズに①から②につなげるコツは、前足を後足にぶつけると同時にジャブを放つ→後足が後ろに投げ出されるようにすることです。
詳しくは、「VIVA!BOX MEXICANO」(2024)[古川久俊]p.32を参照してください。
写真とともに詳しい解説がなされています。
この手法を編み出した、巨匠リベロの背景とともに学ぶと、より一層楽しめると思います。
たしか、DVDで実演もされていました。
参考文献
基本的な動作の確認等は、下記の書籍の写真等を参考にしてみて下さい。
これらに掲載されていない、私が口伝として賜った技術については、本文の方で、自作イラストを掲載しております。
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